採用が経営を変えた瞬間 代表取締役社長 林 善博氏

味噌で食の楽しみと健康に貢献。
そのために会社は変化を続ける。

株式会社ひかり味噌 / 代表取締役社長 林 善博

Vol.2

株式会社ひかり味噌
代表取締役社長 林 善博

1960年長野県生まれ。1982年慶應義塾大学法学部卒業後、信州精器株式会社(現セイコーエプソン株式会社)入社。94年に同社を退職、ひかり味噌株式会社に入社。常務取締役特販営業部長、専務取締役経営管理本部長を経て、2000年4月に代表取締役社長に就任。伝統を継承しながらも新しい事業への挑戦を積極的に続けている。
※所属・役職等は取材時点のものとなります。

更新日:2017年11月8日

入社と同時に経営体制を改革。組織経営が出来る人材を採用

ひかり味噌は長野県諏訪で1936年(昭和11年)に創業した味噌屋で、業界のなかでは後発にあたります。私は12年間勤務したセイコーエプソン(入社時は信州精機)の海外事業部からの転職で戻ったような形でした。ずっとエプソンで働いてもいいと思っていたので、自分が家に戻って何代目になるんだといった意識は全くなかったですね。

入社してからは、徹底的に会社を変えようと決めました。当然、父と激論になるのですが、ありがたかったのはいつも最後には「お前の好きなようにやれ」と言ってくれたことでした。言い捨てるようにして、会議室を出て行きましたけれど。私が入社した当時、ひかり味噌の地元・諏訪での評判は「同族には甘いけど、社員には厳しい」。まずは、この同族経営を組織経営に変えていこうと、どんどん採用活動を進めました。社内で話をすると、総論ではOKだけれど、各論になると出来ない、ということが多かったんです。組織経営が実践できる人に入ってもらわないと、会社は変われないなという思いが強くありました。

2000年に私が社長に就任し、いま会社の規模が3倍以上に成長できたのは、現在の役員、部長、課長らメンバーが揃ったからだと思います。経営指南役、アドバイザーの方にも本当に恵まれました。採用の時には「会社の仕組みは出来ていません。あなたが入って、好きなようにやってください」と言っていました。スタッフにはそれくらいの力強さや逞しさを持った人を希望します。それは今も変わりませんね。

勤勉気質の長野県人の中に、多彩な“血”を加えて力を出す

いま、ひかり味噌に在籍していて感じるのは、長野県人の一番の特徴は「勤勉」だということです。業界団体の活動を見ていても、長野が一番一生懸命活動していますし、結果として長野県の味噌メーカーの競争力がどんどん上がっている。シェアも伸びて、コストダウン対策も一番進んでいます。うちの社員を見ていても、勤勉だなと感じます。

信州味噌は万人受けする味で、どの具材とも相性が良いこともあって広がり、いま全国シェアの半分を占めていて、なおかつ年間1ポイントずつ伸びています。他の県からすると、長野県の味噌メーカーは安売りしてシェアを伸ばしてけしからんと言うけれど、企業努力はしているし、経営者は皆、勤勉で、やることをしっかりやっているから出来ることなのだと思います。

一方で、会社のメンバーを全て長野県勢で固めてしまうのは良くないとも思ってきました。いろいろな地方の出身者や、いろいろな経歴を持った人が集まって、ある種の混血部隊になったほうが、会社としては力が出るはずだと思うからです。そのルーツは前職での経験です。当時から長野県の会社という雰囲気は意外となくて、もちろん長野県出身者は多いのですが、全国各地の大学出身者、地方出身者が経営陣も含めて多くて、長野県主義にこだわっていなかった。そこに新鮮味を感じました。ひかり味噌に移ってからも、そのように意識はしました。前職は国際化も非常に進んでいた会社だったので、その部分でも影響を受けたものは大きかったです。いま、私が会社で言っていることの7割くらいは、エプソン時代に形成された考え方です。たくさんの学べる機会があった、非常に恵まれた環境の前職だったと思います。

経営者はどんな環境下でも会社を成長させなければいけない

こうして激変していく時代にあって、人材も会社も変化対応型でなければいけないと思います。変化のスピードは、インターネットの普及によって、かつてより格段に速くなっています。日本は石橋を叩いて、リスクテイクを徹底的にやってから踏み出す企業が多いし、当社にもまだそういうところがあると思います。でも、それでは他社に先行されてしまいます。日本は農耕民族で、同じ場所に居を構えて、商売を永続したいという思いがある。欧米は稼いだら、短期のうちに乗り換えて、新事業につぎ込んでいきます。変化の中で生きること、入り口と出口を常に考えているんだなという印象です。

最近の私の考え方は、7割がたイメージがつかめて、行けそうだと思ったら前に進めるというもの。残り3割を詰めて、100%の完成度にしてから動かそうとすると、手遅れの場合が多い。しかも100%の完成度というのは独りよがりであって、実際は売ってみないと分からない訳です。それなら、そこそこ行けそうだと思ったら外に出して、お客様や取引先の評価を受ける方がいいと思います。

こうした考えは、他社で仕事をして、外の世界を見たから持てたのかなと思います。イギリス駐在の時、子どもの友達の家に行くと、キッチンがピカピカなんです。共働きで平日は料理をしないからです。冷凍食品をお皿に乗せて、レンジしてお終いです。かろうじて週末に何かを作るくらいです。その現場を見て、恐ろしくなりましてね。日本のように、毎日スーパーで買い物をして、手作りの夕ご飯を食べるというのは、しばらくしたら無くなるのかもしれないなという思いで帰国して、ひかり味噌に入ったんです。

美味しいものを食べたい、食べることによって健康でありたいという思いはありながらも、買い物や調理の時間は減らしたいし、キッチンが汚れることをやりたくないという感情は本能的なものでしょうから、それに背を向ける訳にもいかない。味噌は料理をする喜びの方向性であり、一方で利便性や時短を意識した商品も必要という、メリハリをつけた多様化が必要だと思っています。

求めるのは、立場に関係なく、対等に議論できる社員

変化が激しくなる時代だからこそ、社員には自分で仕事の仕組みが作れるしたたかさ、ガッツが欲しいですね。新卒学生向けの会社説明会でも話すのですが、日本は個人の存在が弱いので、もっと自分を主張するというか、自分を大事にしなければいけないと思います。封建時代からの歴史的価値観で、飛び出る人は抑え込むというのがいまも根付いていますから、無理もないとは思うのですが、何でも横並びというのは日本の悪いところ。もっとのびのびと個人が主張できる環境でなければならないし、同時に個人の努力が必要だと思います。自分で自分を作って、ずうずうしいくらい自分を売り込まなければと思います。

その意味でも、私が一番求めている人材は、立場が何であれ、私と対等に議論ができる社員です。「社長にはちょっと相談しにくい」と尻込みされても困るんですよね。「自分の意見をちゃんと言ってくれ、俺も言うよ」という関係が必要なんです。もちろん、道義的に許せない話のときは商売人としてきちんと言います。自分を強く作り上げてほしい。ひかり味噌の社員は皆そうあってほしいという期待と意識を持って、私はいつも接しているつもりです。

次世代に会社のDNAをつなぐ「ひかり味噌アカデミー」

最初にお話しした通り、私が必死に口説いて入社してもらったメンバーが会社の推進部隊になってくれていて、私の財産だと思っています。彼らがいま40~50代半ばなので、次の課題はその後に続く世代を育てることです。過去20年間、コンサルタントを入れたり、社員教育の会社にセミナーをお願いしたりして試行錯誤してきましたが、なんとなくしっくりいかない。どうしようかなと焦りも感じながら考えた末に出した答えが、自分でやってみようということで、2016年からひかり味噌アカデミーというのを始めました。

これは一種のDNAの伝承のようなもので、私が年間6回、5時間ほど、ほとんど一人でしゃべります。私の職業観や失敗談、苦労話、何かの裏話など、本音に近い部分で話をしています。さらに、2年目からは、他の役員にもやってもらっています。これは自分の発案ではなくて、新聞を見ていたら孫正義さんが後継者育成のためにソフトバンクアカデミアを作ったという記事が目に入って、これだなと思ったんです。教育というのは、何をやるにしても重要なのは継続です。これも5年、10年を続けて、ようやく外から見たら「ひかり味噌の人って変わってるね」「ひかり味噌の人っていいよね」と思われるようになるのだろうと思っています。

編集後記

積極的に海外展開を行い、また社員の成長にも力を入れている同社。社長のご経歴や、ひかり味噌様に入社した時の想いを伺い、改めてなぜひかり味噌様がそれらのことを大切にされているのかとても納得致しました。今のひかり味噌様があるのは、まさに優秀な人材を積極的に採用され、社員の自主性を尊重されてきたからこそ。社員の声に耳を傾け、多角化を促進してきたことで、今のひかり味噌様の社風があるのだと実感しました。そして社長ご自身も非常にイキイキと楽しそうに仕事の話をされている様子がとても印象的でした。

文:リージョナルスタイル認定コンサルタント 渡邉 美和

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