受け継いだ環境配慮のものづくり。その更なる高みを目指して。
株式会社モキ製作所
代表取締役社長 唐木田 国彦
1978年生まれ。長野県長野市出身。
2001年 中央大学卒業。新卒で金融機関へ就職し、貯金・為替・融資を担当。
2018年 モキ製作所入社。
2020年 代表取締役社長就任。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
仕事で出会う経営者たちの姿に憧れを抱いていたサラリーマン時代。
モキ製作所は、長野県千曲市で無煙薪ストーブや食品リサイクル向け分別装置など、地球環境に配慮した製品を企画、製造、販売しているメーカーです。
義理の父でもある会長が1968年(昭和43年)に創業し、木質燃料に着目。高温焼却の独自技術によって、1986年には煙突の無い家庭用焼却炉、1988年には無煙薪ストーブを発表しました。分別装置は業界のパイオニアであり、リーディングカンパニーです。最近はアウトドア分野にも展開し、サウナストーブが大変好評いただいています。
私は2020年に社長に就任し、経営を受け継ぎました。長野県長野市出身で、中央大学卒業後は金融機関に就職。貯金や為替、融資を担当しました。特に融資の仕事は経営者と話をする機会が多く、仕事に対して情熱的に向き合う姿を見て、経営者というのはすごいなと感じていましたね。漠然とですが、いつか自分も経営者になりたいという思いも芽生えていました。
2007年、29歳の時に結婚したのですが、妻がモキ製作所の創業者の娘で、そのとき初めて当社の存在を知りました。融資は南信地域を担当していたので、北信エリアの会社のことは知らなかったんです。妻の実家に行くと、よく会長から「うちの会社に来てくれないかな」と言われていたのですが、私自身は金融機関での仕事が楽しかったので、そのつもりは無いです、と断っていました。
しかし、結婚して10年近く経ったときに、いよいよ後継者がいない、このままだと会社が成り立たなくなると言われたんですね。そのとき自分は39歳で、40歳を目前にして「このまま金融機関にいるのもいいし、ここで畑違いのところに行って挑戦するのもいい」と、相当悩みました。最終的には経営というものへの憧れもあったので継ぐことを決心し、2018年に入社しました。
開発部門のメンバーを拡充し、新しいものを生み出せる体制に。
当社はメーカーなので、商品開発が命です。創業者がとにかくアイデアマンで、これまでは彼の情熱が会社を引っ張ってきていました。だからこそ個性ある独特な商品が誕生してきたのですが、それゆえに商品開発を手掛ける人材が育っていないことに、入社してから気がつきました。当時、開発部門は2、3人しかいなくて、その人数だと既存業務に追われ、新しいことを手掛ける余裕がありませんでした。
「将来、会長が最前線でやれなくなったら、会社はどうなるのだろう。良い商品はたくさんあるけれど、新しいものを生み出せる人間がいない。会社の未来のためには、何が何でも良い人材を増やさなければ」という思いで、私が社長に就任した前後から採用について積極的に取り組むようになりました。
リージョナルキャリア長野(運営会社:株式会社エンリージョン)の力も借りて、現在は6名に増員でき、やっと前向きな開発ができる体制になりました。
新たな開発は、まずは会長が作ってくれたものをもっと良くしようとか、違うアプローチで商品を作ってみようということから始めています。そのなかで生まれたのがサウナストーブです。会長が長年やってきた薪ストーブの技術を活かして、サウナに特化したストーブを作ってみては、というアイデアから始まりました。
こうした開発のサイクルをどんどん続けていきたい。そこには当然、失敗もあるでしょうが、それでもめげずにやっていく。絶対に口にはしませんが、会長もこれまでにたくさん失敗しているはず。そういう経験によって人は成長していくと思うので、みんなでやりきっていこう、という感じです。
居なかったタイプの人材が加わることで会社は活気づく。
私の代になって、言われたことを言われた通りにやることから、自分たちで試行錯誤していくスタンスに変わっていこう、という方向性になったわけですが、社員にしてみたら「さあ、やるぞ」と言われて、すぐ心に火がつくわけでもないと思います。私自身もいろいろなアプローチをしながらやっていかなければ、社員のみんなは付いてきてくれないだろうと感じるので、そこは私の課題ですね。
それを含めても、やっぱり採用は大事で、新しいものを作りたい、本当に喜ばれるものを世に送り出したい、というマインドを持った人に来てもらえるかどうかが、会社にとって重要です。営業についても、今までは足を使ってお客さまのところに訪問して、という昔ながらの営業スタイルのみでしたが、ウェブもできる人に来てもらったことで、SNSの活用やECショップも充実してきました。
そうすると、ウェブマーケティングの力がついてくるわけですが、それ以上に会社が活気づくんですね。「こういうこともできるんですね!」「すごいですね!じゃあ、こういうこともできますか?」というふうに、その人を触媒にして会社が活性化される。これまでいなかったタイプの人材が加わることによって起きた変化を見て、よかったなと思うと同時に、やっぱり会社は「人」だと思いました。
スキルやマインドが合致した人に来てもらうと、こんなにインパクトがある。だからこそ、「良い商品を作りたい」という思いが強い人に来てもらいたい。そのために、当社に目を向けてもらう活動を積極的に発信していかなければと考えています。どの会社もそういう人材が欲しいですから、いかに当社に興味をもってもらえるかがポイントで、まずは会社自体が魅力的になっていくことが重要だと思っています。
チャレンジ、トライするマインドを盛り上げていきたい。
自分たちで考え、作っていくというマインドをもっと盛り上げていくためにも、チャレンジ、トライを推奨しているというメッセージは伝えていきたいと思っています。
当社に「分離職人」という製品があるのですが、そのなかの期限切れのコンビニ弁当のパックと中身を分別する機械の開発リーダーを、中途入社してまだ1年経っていない社員に任せたこともあります。課題は、お客さまや営業から出ていた「小型化」と「騒音を抑えてほしい」という要望に応える新型機の開発で、すごく頑張ってくれています。
製販が一緒のメーカーというのは、こうやってお客さまの声が直接入ってくるのが良いところだと思います。私はまだまだ社歴が浅いうえに開発もできないので、社員の皆さんにいかにやる気になって頑張ってもらうかを考えていくことしかできない。
入社したとき、営業も製造も経験しようかとも考えたのですが、残された時間を考えると、自分は社長業に専念して、現場は社員に頑張ってもらおうと。正直なところ、いまも社員に対して後ろめたさはあるのですが、そこは自分のなかでも割り切るようにしています。
お客様の人生の一部になっていくものを作るという喜び。
この会社に来て感じたのは、小さい会社は社員がいろいろなことにチャレンジできる環境だということ。私は、以前は金融機関という大きい組織の中にいました。任せられた範囲でしっかり仕事をやっていくことが求められ、それも楽しかったのですが、同時に自分ひとりが抜けても組織がどうこうなるわけではないし、自分は歯車のひとつだなという思いもありました。
小さい会社は逆で、これだけやっていれば済むというものではなくて、社員それぞれが全体を見て仕事をしていくことになる。そうやって仕事に取り組みたい人にとっては、良い職場だなと思いますね。加えて、当社は環境を意識した仕事をずっとやってきているので、そういう商品を作ってみたいという情熱がある人にとってはやりがいのある会社だと思います。
ものづくりというのは、働きがいも強く感じられる仕事で、人の生活に入り込んでいくものを作ることができるのが魅力です。当社のホームページで、製品を愛用してくださっているお客さまにインタビューする企画があって、直接お話を伺う機会が多いのですが、そういう時に「やっていてよかった」と感じるんです。
薪ストーブを長年使ってくださっている年配の女性のところに伺ったときには、「亡くなった主人はこの薪ストーブが大好きで、そこで本を読みながら、お酒を飲むのがお気に入りだったんですよ」というお話をしてくださって、すごく感動しました。
うちの商品が生活の一部、人生の一部になっている。そういうものを作ることができるというのは良い仕事だと、心の底から思いました。毎月第2土曜は本社で実演会をやっているのですが、青森や四国からなど、遠いところからもストーブを見に来てくださる。本当にうれしくて、ありがたいことです。
第3の柱となる事業を作ってバトンタッチすることが目標。
これからの課題は、会長が残してきてくれたものを使わせてもらいながら、自分たちが次に繋いでいける財産を作れるか、ということ。会長が50年間かけて積み上げてきてくれたものと同じくらいのものを、次の世代にバトンタッチしていかないといけないという思いがあるし、それに対するプレッシャーも当然感じています。
私としては、会長が「燃えるもの」と、「分けるもの」という2本柱を作ってくれたので、自分の代でもう1本、事業の柱と言えるものを作りたいと思っています。それは製品を改良していく過程でできていくものかもしれないし、まったく新しいジャンルかもしれない。
明確な戦略はまだ見えていないのですが、とにかく三本目の柱は絶対に作ってバトンタッチしたい。そのためには守りに入らず、チャレンジをしていかなければなりません。大変だとは思いますが、偉大なものを残してもらっているので、真面目に愚直にやり続ければ、それは必ず叶うと思っています。