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安曇野から世界への挑戦。わさび製品の価値を高めたい。

株式会社マル井
代表取締役社長 井口 連

更新日:2023年8月30日

1980年 長野県生まれ。神田外語学院卒業。
2003年 食品会社の営業職、人材サービス会社の代理店営業を経験。
2006年 株式会社マル井入社。東京支店にて営業職として従事。
2017年 本社 管理部門へ異動。仕入業務・海外業務に従事。
2023年 代表取締役社長就任。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

複数の業界で営業職の経験を積み、わさび業界へ。

マル井は、主に業務用のわさび関連製品を製造しているメーカーです。祖父が1946年に創業した会社で、私の父が2代目、叔父が3代目を継ぎ、2023年1月からは私が4代目としてバトンを受け取りました。

私は、中学卒業まで地元の安曇野市で暮らしていましたが、高校からは単身で東京に進学しました。その後、食品会社の営業と人材サービスの代理店営業の仕事を経験しています。

人材系の会社に入ったのは、新規営業をやってみたかったからです。なかなか大変な仕事でしたが、新規営業を経験すればその後のキャリアにも役立つと思いました。同僚たちは元気な人が多く、多くのことを学ばせてもらいながら楽しく働いていました。

25歳の頃にマル井の東京支店に入り、今年で勤続17年です。東京支店では営業一筋で10年ほど働きました。それから本社の管理部門へ移って今に至っています。

業務用製品を小売用へと転換。食卓の新たな定番商品に。

当社はスーパーや鮮魚専門店、回転寿司店などが厨房で使うわさびを製造・販売しています。一般の消費者さま向けの商品では、「味付あらぎりわさび」が一番の売れ筋です。

商品が生まれたのは2009年で、この少し前に他のわさびメーカーが類似の商品を業務用市場で投入し、爆発的なヒットを記録しました。そこで同業各社が追随するようになり、当社も「味付あらぎりわさび」を開発したという経緯があります。

最初は業務用のみ販売していましたが、あるとき小売店の担当者から「これを市販用で売ってみてはどうでしょう」と打診いただき、店頭に並べたところ、一般消費者の皆さまから非常に好評をいただきました。

「味付あらぎりわさび」は、今では当社を代表する商品となり、北海道から沖縄まで全国で販売しています。他のメーカーは業務用しか展開していなかったところを、当社が小売の現場で先行してシェアを取れたのが良かったのだと思います。

業界全体の課題である「商品単価の低下」をどうにか乗り越えたい。

当社は約20年前に比べ、商品の生産量が2倍に増えています。一般的に生産量を増やすには、社員の増員が避けられませんが、当社では社員数を大きく増やすことなく、生産性向上や機械スピードを上げるなどの対応で実現しました。

工場の作業工程では、わさびの仕分けやカットなどを一部手作業で行う必要があり、かなり人の手が必要です。今は当社の社員に加えて、わさびを洗浄・殺菌・カットする工程などで、地元のシルバー人材の皆さんにも力を貸していただいています。

今後、売上と生産量の両方を伸ばすことを考えれば、やはり製造現場の自動化は不可欠だと思います。工場の設備投資や将来的な移転も含めて、社員がより作業しやすい環境を整えたいと思っています。

また、生産量としては増えているものの、実は事業規模に大きな変化がなく、売上もそれほど伸びていません。なぜなら、商品の単価が下がっているからです。わさび業界全体がこの課題に頭を悩ませています。

わさび専門のメーカーは当社を含めて国内では数えるほどで、競合の数で言えばそれほど多くありません。業界で長い歴史を持つ老舗もあって、当社は後発の部類です。加えて、わさびはどこでも原料調達ができるものではないため、これから新規参入をする会社はほとんどないでしょう。

数少ない同業の中で、価格勝負をしても意味はありません。業界全体を伸ばしていくためには、新たな商品をどんどん市場に出す必要があると思います。「自分たちだけ良ければいい」ではなく、業界全体が活気づくために当社ができることは全力でやりたいですね。

わさびの生産地として有名な安曇野市に会社がある利点を活かして、これからは商品力を上げていく必要があると思っています。「安曇野ブランド」を掲げて、価格ではなく付加価値のある商品をお客さまに届けられる会社であるために、現在色々と模索している最中です。

「安曇野のわさび」を世界へ!海外事業を見据えた今後の展望。

当社は近年、海外での事業展開を強化しています。売上全体の15%程度は輸出関連で、地域は北米と東南アジアが主です。海外ではおよそ90%が業務用の製品で、日本食レストランや寿司店、スーパーのお惣菜を作る厨房にも供給しています。

一昔前は日系スーパーにしかなかったお寿司コーナーですが、今ではアメリカ資本のスーパーにも設置されるようになりました。海外で和食が人気になればなるほど、わさびの需要拡大の可能性は広がると思います。

しかし、競合他社もあり、海外では中国の会社がコスト面で強いですね。そういった市場では、ますます日本ブランド・安曇野ブランドの価値を押し出す必要があると考えています。

海外での営業活動は代理店に任せるケースもあるのですが、当社は社内にも担当がいます。今年からは、日本に来て5年目のフランス人の社員に、新しく担当を務めてもらうことにしました。

彼は当初、製造現場のアルバイトとして入りましたが、非常に努力家なので、日本人の担当者だけでは手が回らないところをフォローしてほしいと考えています。当社にとってヨーロッパの市場はまだまだ未開拓の部分が多いですから、これからの彼の活躍には期待しています。

故きをたずね、新しきを創る―これからのマル井が求める人材。

4代目の経営者として私が大切にしたいことは、今までの良かった部分はしっかり引き継ぎ、足りていない部分は変えていくということです。当社はメーカーですから、やはり商品開発や製造現場はもう少し強化したいところです。しかし、それらの部署に限らず、会社全体を引っ張って行ってくれるような方を採用したいと思います。

私たちが一緒に働きたいのは、自ら考えて行動できる人です。ここ数年はキャリア採用に力を入れ、社員がいろいろな改善や改革を進めてくれたおかげで、会社が良くなってきた実感があります。そんな優秀な社員をこれからもぜひ迎え入れたいですね。

当社は今後、世界を視野に入れたビジネスを展開していきます。今までと同じことをやっているだけでは、シェアを伸ばすのは難しいでしょう。「日々の改善」を大切にして、社員が社内の課題を発見したときに、解決へ向けた行動を起こしやすい組織づくりも大事だと考えています。

お店にも食卓にも「わさびの新たな価値」をお客様へ届けたい。

当社は昔から長野県内でテレビCMを流していて、今はそのイメージキャラクターを元柔道日本代表の篠原信一さんに務めていただいています。「サビはやっぱり、マル井だぜ!!」というキャッチフレーズは、長野県内では覚えてくださっている方も多いです。安曇野という地域も、ここ数年でわさびの名産地として認知度が上がってきました。

さらに、これまでは「わさびといえばお刺身・お寿司」だったのが、今ではお肉と一緒に食べることも一般的になりました。お菓子のフレーバーのわさび味も人気を集めています。当社にとって非常に追い風の状況を活かして、今後は一般の消費者の皆さまに支持していただける商品づくりを進めたいと思っています。

おかげさまで「味付あらぎりわさび」は多くのお客さまに定番商品としてお求めいただいていますが、発売から10年以上が経過し、そろそろ新しい商品が欲しいところです。

最近は商品の安さよりも、価値があるかどうかを重視するお客さまが増えた実感がありますので、安曇野ブランドを活かして付加価値の高い商品の展開を目指します。

編集後記

コンサルタント
中山 祐二

「サビはやっぱり、マル井だぜ」というフレーズは、長野県出身なら必ず一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

インタビュー当日、社長にわさび畑を案内してもらいました。冷たく清らかな水の上にわさびが青々と育っている様子を見て、この安曇野で育ったわさびが世界中に届けられているのだと思うと、大変感慨深いものがありました。

自宅の冷蔵庫に常時「味付あらぎりわさび」があるほど、私もマル井商品の大ファンなのですが、新しい製品開発に力を入れていきたいという社長のお話が聞けましたので、新商品リリースをいち消費者として心待ちにしたいと思います。

そして同社の採用パートナーとして、引き続き企業の発展に貢献していきたいと感じたインタビューでした。

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